開発目的

スマート農業実現に資する最先端技術として農機の自動運転などが挙げられます。現在、日本各地で実証実験が行われ、今後新しい農業が普及することが期待されます。

それにともなって、農業分野におけるナビゲーションも登場しています。目印がない圃場などでも利用するためには、私たちが日頃使っているカーナビ(カーナビゲーション)やスマフォのナビゲーションより、さらに高精度の位置計測が必要になります。位置精度が悪いと隣の圃場に位置することになってしまいます。

近年、GNSS受信機の低価格化によって、個人でも数cmの誤差で位置を計測することが可能となってきました。そこで、本作品はRTK-GNSSをトラクターに搭載し、高精度かつ効率的に耕すことができる自作トラクターナビゲーションを構築しました。

コンセプト

  • 高精度な位置計測

     低コスト化したGNSS受信機を導入


  • 背景地図の自由度(農作業によって欲しい地図が変化)

     ドローンで計測した凹凸マップやNDVIマップ など

     

     → 既存デバイスの組合わせでシステムを構築

 

従来のカーナビ(カーナビゲーション)は目的地に到着することが主な目的ですが、農業版ナビは農作業の内容によって目的が変化します。しかし、ほとんどの機種は背景地図まで注目されず、図形を塗り潰したものや背景そのものが変更できないものもあります。本作品のトラクターナビゲーションは背景地図に注力しています。ドローンで計測した凹凸マップや作土層の深さを示すマップなどユーザ側で任意に選択できます。実際に、水稲農家が本ナビゲーションを使用して栽培した結果、収量(導入前と比べて3割増収)および味に関して大幅に向上しています。

アーバンデータチャレンジ2023

仕組み

トラクターナビゲーションは、既存のデバイスを組み合わせてシステムを構築しています。

ハード面は低価格のGNSS受信機、配信用PC、タブレットPCおよびスマートフォンを、ソフト面ではオープンソースのRTK-LIBとQGISが必要となります。このシステムはDIY要素が高くユーザ側の自由度はあるのですが、ボタンひとつで起動することができないといった課題もあります。

 

測位方法

GNSSの単独測位では水平方向に数mの誤差が含まれるため、目印の少ない圃場内では使い勝手がよくありません。そのため、誤差数cmで位置計測ができるRTK-GNSSによる運用が必要になります。

国内では、GNSS衛星(米国のGPS、日本のみちびき、ロシアのGLONASS、EUのGalileo)からの信号を24時間365日観測する電子基準点が約1,300箇所整備されていますが、これらのデータをリアルタイムに利用する場合は有償となっています。

高精度な位置計測(GNSS受信機・基準局)

測量分野では、数十年前からRTK-GNSSは現場で使われています。ただし、測量用の検定に合格した機器は何百万円と非常に高価であったため、なかなか個人で手を出すことはできませんでした。しかし、センサの小型化や低価格化によって、個人でもcm単位で位置計測を行えるようになりました。

2018年に2周波の信号を受信できる基板ZED-F9P(u-blox社)が開発されました。これによって、高精度な位置計測が低コストで実現できます。ただし、基板で発売されているため、受信機を入れるケースなどは自作する必要があります。

屋上に設置した基準局の信号は、配信用PCから「善意の基準局(オープン基準局)」として、ネット配信を行っています。この受信データを世界中の誰でも利用することができます。

スマートフォンのテザリングで、インターネット経由の基準局の信号とトラクターに設置した移動局の信号からリアルタイムに位置計測を行います。

高精度な位置計測(移動局)

移動局となるトラクターには遮蔽のない屋根上にアンテナを取り付け、ケーブルと基板セットをトラクター内に収納します。ケーブルをUSBでWindowsタブレットPCに接続し、「RTKLIB(オープンソース)」でリアルタイムに位置情報を解析していきます。移動局はシリアル接続、基準局はスマフォのテザリングでネットからトラクター内で受信します。それらを解析した結果はシリアルポートで出力します。この時に役に立つのが仮想シリアル(COM) ポートドライバ「com0com」です。いろいろ制限がありますが、RTKLIBの結果をQGISでリアルタイムで受け取ることができます。

また、表示部分は8インチのWindowsタブレットPC(ONKYO:TW08A-87Z8)を採用しました。トラクター内の居住空間などを考慮すると、8インチぐらいがちょうどいい大きさになります。

トラクターナビゲーション:試運転の様子

トラクターにナビゲーションおよびカメラを搭載し、その試運転の様子をまとめてみました。背景地図には、事前に撮影したドローンの空撮画像と地理院地図(国土地理院)を重ねたものを設定しています。

背景地図の自由度

農作業は、作業内容によって表示したい地図が変化します。

例えば、圃場の均平化を行う際には、凹凸マップ(ドローン空撮から作成)があれば、土壌を高い所から低い所に目掛けて移動させます。また、国地理院が整備した土地条件図を用いれば、圃場内に旧河道がどのように分布していたかなど確認もできます。

そのため、自分で用意した(見たい)地図を背景として表示することが重要になります。

地理院地図などweb地図を読み込むことができるので、背景地図を用意しなくても大丈夫です。

背景地図作成

背景地図の作成には、ドローンを用いて空撮した画像などを使用します。モニタリングに特化したP4M(DJI社)は、6つのカメラが搭載されています。近赤外と可視光の赤色を用いればNDVIマップを作成でき、間接的にはなりますが、圃場の地力を把握することもできます。

トラクターナビゲーションの運用

トラクターナビゲーションはQGISを利用しています。そのため、事前に耕耘する際に最適なコースのGISデータを作成すれば、そのコースに沿って耕耘することもできます。また、トラクターが移動した軌跡もGISデータとして扱うことができるため、トラクターの運転時間や耕耘した距離なども定量化することができ、農業経営の基礎資料にもなります。

水稲栽培の実績

2014年からドローンによる水稲モニタリングを実施してきました。ドローンによる栽培計画および栽培管理を実施してきたことによって、収量・や味は大幅に向上しました。さらに、収量・味の品質向上を図るために、2019年春からトラクターナビゲーションによる耕耘や代掻きを行ってきました。2019年は、その成果がでた初年度になります。この年は、前年より減収・味の低下が生じてしまいました。その理由は、栄養価の低い土壌(耕盤層)まで耕耘したことによる作土層の地力低下が考えられます。それらの反省点から、トラクターナビゲーションを用いて効率的な耕耘に心がけた結果、2023年は過去最高の収量を記録しました。

チーム名:ドローン新米学生(日本大学経済学部 田中圭ゼミ)
 2年:神田竜我・島津双葉・水品泉吹、3年:古屋 睦・鳥居寛太